川崎市中原区のみなさま、こんにちは。武蔵小杉駅からすぐの池田動物病院です。
ねこちゃんが中高齢になるとなりやすい病気の1つに「甲状腺機能亢進症」があります。(ヒトではバセドウ病とも呼ばれています。)
「甲状腺機能亢進症」の初期には、行動が活発になる・食欲があるのに痩せていくといった、病気のサインとは考えにくい症状が現れます。
当院では、甲状腺の数値をチェックできる血液検査もございますので、甲状腺機能亢進症かも?と思ったら、ご相談ください。
1|猫の甲状腺機能亢進症とは?
まず、甲状腺とは何でしょう?
1-1|甲状腺とは
甲状腺は、喉頭、気管の両側にあり、甲状腺ホルモン(サイロキシン:チロキシン:T4)を分泌する内分泌器官です。この甲状腺ホルモンには、身体の基礎代謝を活発にする作用があります。「甲状腺機能亢進症」は、甲状腺ホルモンの分泌が増加するため、身体の組織の代謝が亢進し、さまざまな症状が引き起こされます。
1-2|甲状腺機能亢進症
甲状腺機能亢進症は、甲状腺の腫瘍または過形成によってT4が過剰に分泌され、甲状腺ホルモンの分泌が過剰になる病気です。わんちゃんと比べるとねこちゃんに多い病気です。わんちゃんの場合は、甲状腺機能低下症が多く見られますが、甲状腺機能亢進症はあまり見られません。中高齢のねこちゃんに多くみられます。
2|猫の甲状腺機能亢進症の原因
甲状腺機能亢進症は、甲状腺の腫瘍や細胞が異常に数を増やしてしまうこと(過形成)で起こります。甲状腺の腫瘍は、ほとんどは良性で、悪性のものは2%未満といわれています。異常に大きくなった甲状腺は、触ってみると首の皮膚の上からでもわかることがあります。甲状腺の異常によって、甲状腺ホルモンの分泌が過剰になってしまいます。
3|猫の甲状腺機能亢進症の症状
甲状腺機能亢進症は、片側または両側の甲状腺組織の過形成や腫瘍化などによって甲状腺が大きくなり、甲状腺ホルモンが過剰に分泌される病気です。そのため、活発になる、落ち着きがなくなる、食欲が増す、痩せていく、などの症状がみられます。興奮しやすくなることから、目もパッチリ開いていることが多く、よく鳴くようになり、鳴き声も大きな声で叫ぶような鳴き方で、夜鳴きもみられることがあります。
甲状腺機能亢進症の主な症状
- 痩せてくる(体重減少)
- 食欲旺盛(食べるのに痩せてくる場合は基礎代謝が増加するため)
- 食欲低下(病気の進行によって食欲が落ちることがある)
- 行動が非常に活発になる(落ち着きがなくなる)
- 多飲多尿(お水の飲む量が増え、おしっこの量が増す状態)
- 嘔吐、下痢などの消化器症状
- 脱毛、毛づやが悪くなる
- おめめがパッチリする(瞳孔・黒目が大きくなる)
- 高血圧、頻脈、心雑音、心肥大
- 呼吸が速くなる
- 大きい声で鳴く
- 攻撃的になった
- 甘えんぼうになった
上記にあるように、ねこちゃん自身は食欲旺盛で活発に動き回るため、すぐには病気だと気づけないことが多くあります。
飼い主さんの中には、病気だと気づかずに「高齢の割には元気」だと捉えている方が多くいらっしゃいます。
病気が進行すると、体力の低下、食欲減退、削痩、嘔吐・下痢を繰り返します。
4|猫の甲状腺機能亢進症の診断
・血液検査
甲状腺機能亢進症の確定診断には、血液検査でのホルモン検査が必要です。甲状腺ホルモンには、サイロキシン(T4)とトリヨードサイロニン(T3)の2種類があります。ねこちゃんでは血液中のT4濃度を測定します。
・超音波検査
超音波検査で甲状腺の腫大を確認します。
5|猫の甲状腺機能亢進症の治療法
猫の甲状腺機能亢進症の治療は、甲状腺ホルモンの分泌を抑えることと、その他の併発疾患を併せて治療していくことになります。症状や状態、飼い主さんの希望などによっても治療法は異なりますが、甲状腺ホルモンの分泌を抑えるには、一般的には、内服薬や療法食による内科的治療と、甲状腺を摘出する手術を行う外科的治療があります。
甲状腺機能亢進症は、薬で完治する病気ではなく、一度なってしまったら生涯付き合っていかなくてはなりません。
5-1|内服薬(内科的治療)
甲状腺ホルモンの産生を押さえる抗甲状腺薬(チアマゾール)の投与を行います。一般的に生涯にわたっての投薬が必要となります。投薬にあたっては、まず必要な量を確認するために、投薬前後の血液検査で甲状腺ホルモン濃度の測定をします。投与量が多い場合には、甲状腺機能低下症を引き起こしてしまう可能性があるため、定期的に血液検査を行うなど注意が必要となります。
また、まれですが副作用として、消化器症状(食欲不振、嘔吐、下痢)、かゆみなどの皮膚炎、血小板減少、肝毒性などが見られることがあります。投薬開始後に体調等で気になることがある場合は、すぐに動物病院へ相談してください。
お薬の投与量や回数などは、それぞれのねこちゃんの症状や甲状腺ホルモンの濃度により異なるため、定期的な検査を含め、しっかり通院・検査を継続していくことが大切です。
5-2|食事療法(内科的治療)
甲状腺ホルモンの産生に必要なヨウ素を抑えた療法食(例:y/d)を与えます。この場合は、療法食以外のごはん(おやつや他のごはんも)は与えることができないので、きちんと制限できるか、ねこちゃんが療法食を食べてくれるかどうかが食事療法を続けられるポイントとなってきます。
一般的には食事だけで甲状腺ホルモンの数値を改善することは難しいので、非常に軽度な場合や、投薬治療に補助的に用いられることが多いです。
5-3|手術(外科的治療)
甲状腺機能亢進症を起こしている原因が甲状腺の悪性腫瘍である、投薬できない、内科的治療で効果が見られないケースに手術を行う場合があります。年齢や体調など麻酔に対するリスクや他の疾患の有無も手術を行うか否かの判断材料となります。
甲状腺を摘出する手術になりますが、両側の甲状腺を摘出した場合には、甲状腺ホルモンを分泌できなくなる可能性があるため、甲状腺ホルモン薬の投与を生涯行っていくことが必要となる場合があります。症状や状態などによって、適応時期や手術方法が異なります。外科的治療を希望される場合は、麻酔や術後の合併症のリスク、手術後のケアなどについても、動物病院と相談しましょう。
甲状腺機能亢進症の治療にあたっての注意点
中高齢のねこちゃんの多くは、慢性腎臓病を患っています。慢性腎臓病になると、腎臓への血流がわるくなりますが、甲状腺機能亢進症が原因で血圧が高くなっており、腎臓への血流が確保されて腎臓病の症状が抑えられている、ということもあります。
この場合は、甲状腺機能亢進症の治療をすることで、慢性腎臓病が悪化させてしまう可能性もあるため、治療において、定期的な検査(血液検査やエコー検査等)が必要になります。
6|猫の甲状腺機能亢進症の予防法
猫の甲状腺機能亢進症の予防法は、残念ながらありませんが、血液検査を含む健康診断を定期的に行い、早期発見につなげましょう。
当院でも、春(3~5月)と秋(9~11月)に血液検査の健康診断キャンペーンを行っており、中高齢のねこちゃんにぴったりの健診・甲状腺・腎臓セットもございますので、お気軽にご相談ください。
7|猫の甲状腺機能亢進症のまとめ
大きい声で鳴く、甘えん坊になる、すごい食欲なのに太らない、お水の飲む量とおしっこの量が増えるなど、今までと違う点に気付いたらそれは甲状腺機能亢進症かもしれません。
甲状腺機能亢進症を発症しているねこちゃんでは、肥大型心筋症などの心疾患や、腎不全を合わせて発症していることも多いといわれておりますので、定期的な健康診断をして病気の早期発見につなげましょう。
菊地(愛玩動物看護士)
ペンギンが好きです。ジェンツーペンギンも好きですが、アデリーペンギンが一番のお気に入りです。