川崎市中原区の飼い主の皆様こんにちは。武蔵小杉駅からすぐの池田動物病院です
犬がガーガーと苦しそうな呼吸や咳をしていたら、それは「気管虚脱」という病気かもしれません。原因は何なのか?どのような治療法があるのか?予防することはできるのか? 気になりますよね。今回は、犬の気管虚脱についてまとめてみました。
1|犬の気管虚脱とは
気管虚脱とは、何らかの原因で気管が潰れた状態になることです。気管は呼吸の通り道の役割をしています。気管が潰れてしまい、呼吸がしにくくなると咳が出たり、異常な呼吸音がしたり、ひどくなると呼吸困難になることもあります。
1-1|気管虚脱の症状
初期には空咳と呼ばれる乾いた咳がみられます。「カッカッ」「ケッケッ」などと表現され、実際そのように聞こえます。初期は単発で咳がみられますが、徐々に連続するようになり、興奮するとガーガーとガチョウの鳴くような咳をします。症状が進行すると、長い咳の後に「カーッ」と、痰を吐くような仕草をするようになります。
また、感染を伴うことで気道内に分泌物が貯まり、湿性の咳となります。発作的な咳が繰り返されると、呼吸困難を引き起こします。酸素不足により「チアノーゼ」と呼ばれる、舌や口腔粘膜が青紫色になる状態になることがあります。重症例では失神や窒息することもあります。
1-2|気管虚脱の原因
気管虚脱のはっきりとした原因は分かっていませんが、気管軟骨と呼ばれる軟骨によって筒状を維持している気管が潰れてしまう病気です。遺伝的な要因、高温多湿などの環境的要因、リードの強い牽引などによる圧迫、よく吠えるなどの気道内圧の上昇、肥満などが誘発要因として挙げられます。また、中年齢以上で多くみられますが若くても発症することがあります。
1-3|気管虚脱のグレード
気管虚脱は気道の状態によって、重症度を4段階に分類することができます。
グレード1 | 気道直径の減少率は25%程度 |
グレード2 | 気道直径の減少率は50%程度 |
グレード3 | 気道直径の減少率は75%程度で、気管は重度に平坦化します |
グレード4 | 気道直径の減少率は90%を超え、気管の上下が接触する程虚脱します |
1-4|潰れた気管は治るのか
一度潰れてしまった気管は、元の形に戻ることはないと言われています。外科的手術で気管の形を維持することは可能ですが、再発の可能性もあります。
2|気管虚脱になりやすい犬の特徴
2-1|なぜ小型犬に多いのか
遺伝的要因が関与しているため、小型犬に多くみられると言われています。
2-2|どのような犬種で多いのか
小型犬の中でも、愛玩犬用に小型化された「トイ種」に多くみられます。チワワ、ヨークシャテリア、トイプードル、ポメラニアン、マルチーズ、パグなどです。
2-3|小型犬以外でも発生するのか
中型犬や大型犬でも気管虚脱がみられることがあります。また、猫でもきわめて稀に発症することもあります。
3|気管虚脱の検査・診断法
気管虚脱の診断は、咳や異常呼吸音などの臨床症状や触診である程度の判断が可能です。最適なのは、レントゲン検査です。呼気時と吸気時のレントゲン撮影により潰れた気管を観察して診断します。
4|気管虚脱の治療
一度潰れてしまった気管は、元の形に戻ることはないと言われていますが、内科療法や外科的手術で症状を緩和したり、気管の形状を維持することが可能です。
4-1|内科療法
内科療法は症状の進行を緩やかにするもので、根本的に治すものではありません。ですが、気管虚脱の症状が軽度の場合や手術を望まない場合には、鎮咳剤や気管支拡張剤、去痰剤、漢方薬などの服用による治療が行われます。
4-2|外科療法
外科的手術を行うことで気管の形状を維持することが可能です。気管内に補強材を入れたり、気管外に補強材を巻きつけ気管と縫い合わせたりする手術の方法があります。手術には全身麻酔が必要となるため、重症の場合や高齢の場合にはリスクが高まります。一般的な動物病院では、気管虚脱の手術を行なっていないケースが多く、当院では、必要があれば手術可能な病院を紹介させていただきます。
4-3|治療費用例
気管虚脱の診断および状態確認にはレントゲン検査が必要となります。レントゲン検査は前述のとおり、吸気時と呼気時の撮影が必要となりますので、複数枚撮影いたします。検査費用としては、レントゲン検査が¥11,550~ (体重と撮影枚数によって変わります)かかります。また、気管虚脱であると診断された場合、治療に必要な内服の処方も致しますので、内科療法として治療薬2種類を7日分処方した場合、約¥1,820~(処方内容によって変わります)の費用がかかります。
外科手術では、その子の症状や術式によって異なりますが、約40~80万円と高額となるため、手術の前におおよその目安を教えてもらうとよいでしょう。
5|気管虚脱の予防法
もしも気管虚脱になってしまったら、動物病院を受診して適切な治療を行います。すぐに治るものではないため、長期的なケアが必要になります。ご家庭でできるケアには次のようなものがあります。
5-1|首輪より胴輪ハーネス
散歩の際、首輪を使用している場合、強く引っ張ることで喉を圧迫し、気管をつぶしてしまう恐れがあります。強く引っ張る子の場合には、首輪ではなく胴輪を着用することで、喉にかかる圧を分散させることができます。
5-2|肥満に注意
肥満は気管虚脱の一因とされます。太ることで首周りに脂肪が付き、気管を圧迫します。適度な運動をすることや、適切な内容や量のフードを与えるなど、体重管理に、気をつけましょう。
5-3|過剰に吠えさせない
吠えることは、少なからず気管に負担がかかります。吠え癖がある子や興奮して吠える子の場合には、その負担は大きくなり、気管虚脱の悪化要因となります。無駄吠え防止のトレーニングなどを行い、吠える頻度を最低限に留めることが大切です。「待て」や「お座り」を教えることも有効です。「待て」や「お座り」は興奮した子のクールダウンに役立ちます。興奮して吠える、散歩時に引っ張る、おもちゃに夢中になり過ぎたりするなどの、気管虚脱のリスクを高める行動がみられた時に、制御できるように日頃のしつけが重要です。
5-4|生活環境や空気に注意
生活環境の中にも気管虚脱を悪化させる要因があります。家族にタバコを吸う人がいる場合や部屋が高温多湿な場合です。タバコなどの煙は気道を刺激し、咳を誘発します。部屋をこまめに換気したり、空気清浄機を設置するなど生活環境にも配慮しましょう。
また、タバコ以外でも臭いの強いものは犬にとって刺激になることがあるので香水や芳香剤などの使用には注意が必要です。
5-5|早期発見・早期治療
気管虚脱では、つぶれてしまった気管を元に戻すことは難しく、手術自体もリスクとなります。早期発見・早期治療ができれば投薬治療で症状を緩和することも可能です。咳や呼吸に異常がみられる場合には、動物病院を受診するようにしましょう。
6|まとめ
犬の気管虚脱とは、様々な要因を原因として気管がつぶれてしまう疾患です。原因の1つに遺伝的要因が示唆されており、特定の小型犬に多くみられる特徴があります。気管虚脱になると、空咳やガーガーという呼吸音が始まり、重症になるとチアノーゼや呼吸困難といった呼吸器症状がみられるようになります。
治療には、症状の緩和や進行を抑える内科的治療と気管の構造を補強する外科的手術が行われます。気管虚脱には重症度を表すグレード評価が存在しますが、気管という組織の物理的な変化が原因であるため、一度進行したグレードが元に改善することは内科的治療では期待できず、外科的手術が唯一の根治術となります。
気管虚脱は治療を介入するタイミングも重要であり、タイミングが遅くなると気管虚脱のグレードが進行する可能性があります。そのため、気管に負担をかけないようにする常日頃の予防も大切となります。予防には、首輪よりも胴輪にする、太らせない、過剰に吠えさせない、空調を管理するなどの方法が有効とされています。
小型犬の飼い主さんは、ぜひこの機会に「気管虚脱」という病気があることを知ってもらい、日頃からできる予防をこころがけてください。また、呼吸に異常音や咳症状がみられた際はかかりつけの動物病院へ相談・診察していただき、早期に診断および治療を行うことが大切となります。
名取(獣医師)
生まれ変わっても猫と暮らしたい。