地域密着のホームドクターとして35年
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川崎市中原区の飼い主のみなさま、こんにちは。
武蔵小杉駅からすぐの池田動物病院です。
みなさまは猫伝染性腹膜炎という病気をご存知でしょうか?
病気の英語名表記「Feline Infectious Peritonitis」の頭文字を取って、「FIP」と呼ばれることも多い病気です。
この病気の存在は昔から知られていましたが、何十年間も有効的な治療法が見つからず、かかると不治の病として多くの尊い命が失われてきました。
近年、有効的な治療法の報告が増えてきたとともに、2022年にJFMS(Journal of Feline Medicine and Surgery)という学術誌にFIPの診断および治療の最新ガイドラインが掲載されました。
今回は、猫伝染性腹膜炎(FIP)の病気を解説するとともに、みなさまに新しい情報をお届けしたいと思います。
猫伝染性腹膜炎(以下、FIPで記載します)は、コロナウイルスを原因とする感染症であり、一部もしくは全身に症状がみられて進行し、最終的に死に至る恐ろしい病気です。
感染症ではありますが、病気にかかっているねこちゃんから他のねこちゃんへ直接感染を起こす可能性は低いため感染力はほとんどありませんが、一度発症すると自力で回復する可能性はありません。
また、この病気の厄介なところは「診断の難しさ」「完治できない病気であること」「高額な治療費」になります。
FIPという病気を理解する上で、その病原体の存在を理解することは非常に重要となります。
FIPの原因となる病原体は、現在では最も悪名高きウイルスである「コロナウイルス」に分類されており、伝染性腹膜炎ウイルス(FIPV)として知られています。
コロナウイルスというウイルスは遺伝子変異を起こしやすく、「新型コロナウイルス」と名前が付くように遺伝子変異を起こした新型より以前の旧型も存在します。
ねこちゃんのコロナウイルスでは、旧型として猫腸コロナウイルス(FECV)が存在し、この猫腸コロナウイルス(FECV)は軽い下痢症状もしくは無症状と症状が軽いため、ほとんど感染が問題になることはありません。
そして、感染したねこちゃんの腸内で猫腸コロナウイルス(FECV)の遺伝子が一部変異を起こし、伝染性腹膜炎ウイルス(FIPV)へと変化しているのではないかと考えられております(一応、まだ完全に解明された事実ではなく、強く支持されている推論の域なのでこう書かせていただきます)。
実際に、猫腸コロナウイルス(FECV)と伝染性腹膜炎ウイルス(FIPV)との遺伝子に違いはほとんどありません。
しかし、このわずかな遺伝子の違いによって、猫腸コロナウイルス(FECV)の感染ターゲットとなる宿主細胞は腸上皮細胞であることに対し、伝染性腹膜炎ウイルス(FIPV)の感染ターゲットとなる宿主細胞は白血球の1つである単球やマクロファージと呼ばれる細胞に変化します。
少々、難しい話となってしまいましたが、FIPを理解する上で重要な話となるため、あえて書かせていただきました。
FIPの主な感染経路は、猫腸コロナウイルス感染から始まるため、猫腸コロナウイルスに感染した他猫の糞便からの飛沫経口感染となります。
猫腸コロナウイルスが感染ターゲットとする腸上皮への感染は、経口感染によって容易に成立します。
しかし、猫伝染性腹膜炎ウイルス(FIPV)がターゲットとする単球やマクロファージへの感染は、容易には成立しづらいため、FIPVが感染猫から非感染猫へ直接感染を起こす可能性は低いと考えられています。
FIPの最新ガイドライン(2022年)では、FIP感染猫の60%前後が2歳未満のねこちゃんであると報告しています。
また、現在までの報告で雑種よりも純血種で発生が多い傾向は示されておりますが、若齢期の生活様式(集団生活など)が関係している可能性も考えられており、雑種と純血種で発症率に違いがなかったとする報告も存在します。
伝染性腹膜炎ウイルス(FIPV)のターゲットは、単球やマクロファージと呼ばれる白血球です。
これらは全身に存在するため、感染によって身体のさまざまな部位に症状が現れる可能性があります。
同じ病気でも、症状の出方はねこちゃんによって大きく異なります。
この白血球は血管内にいるときは単球、血管外つまり組織中にいるときはマクロファージと呼ばれており、単球とマクロファージは同一の細胞であり全身のいたるところに存在します。
以前はFIPを以下のウェットタイプとドライタイプの2種類に分類していました。
病態が変化する背景には感染動物の自己免疫力の差が関係していることが分かってきており、このような病態分類は最新ガイドライン(2022年)では用いられなくなりました。
結論として、症状は確定的なものはなく多様な症状が出る可能性があり、その中でも以下の症状が多くみられる傾向を持ちます。
FIPで多く見られる代表的な症状は以下の通りです。
これまで書かせていただいたように、全身に症状が出る可能性があるため、病気の診断には全身検査が欠かせません。
下記の検査を行い、全身状態の把握をします。
これらにより、猫伝染性腹膜炎(FIP)以外の病気の可能性を鑑別診断します。
他の疾患が否定的であり、猫伝染性腹膜炎(FIP)が強く疑われる場合、以下の検査を検討します。
上記の検査を病態に従って飼い主さまとご相談し、FIP診断をすすめて行きます。
FIPの診断は、確定診断の手段が限られており、他の病気と明確な区別がつきにくいところにあります。
感染症であるが故に、初期症状では判断材料が少なく、病気が進行していくにつれて判明することも少なくありません。
当院では、国際猫医学会(ISFM : International Society of Feline Medicine)のFIP治療プロトコールに基づき、
レムデシビルを使用した注射治療を基本としています。
また、費用面を考慮し、飼い主さまと相談のうえで、
モルヌピラビルによる経口薬治療も対応しております。
いずれの治療法でも、最低84日間の継続治療が推奨されています。
詳しくは当院へお気軽にご相談ください。
有効な治療法が登場したとはいえ、FIPは完全に治る病気ではありません。
治療によって症状がなくなったとしても、「寛解(かんかい)」の状態であり、再発のリスクを常に抱えています。
また、再発時には初回治療が効かない可能性もあり、命にかかわる事態になることも少なくありません。
ねこちゃんの状態によって異なりますが、院内検査+外部検査で5万~8万円程度が目安です。
例:体重3kgのねこちゃんの場合
治療効果と費用のバランスを考えると、「レムデシビル+モルヌピラビルの併用」が現実的かつ効果的です。
治療初期は注射治療を重視し、改善に応じて経口薬へ切り替えることで現実的な治療へ。
当院では飼い主さまとしっかり相談し、継続可能な治療計画をご提案いたします。
残念ながらFIPに対する明確な予防法は存在しません。
猫腸コロナウイルス(FECV)や伝染性腹膜炎ウイルス(FIPV)に対するワクチン予防薬はなく、可能性が高い事実として猫腸コロナウイルス(FECV)の感染が引き金であることより、猫腸コロナウイルスに感染したねこちゃんとの接触を避けて感染を阻止することが1つの予防法になると考えられます。
しかし、多頭飼育環境下で感染猫と非感染猫を完全に区別することは容易ではなく、あまり現実的ではないかも知れません。
また、発症リスクにストレスや去勢の有無が挙げられたりしますが、こちらも参考程度に考えていただくのが宜しいかと思います。(ねこちゃんにストレスのない環境作りを目指すことは大切ですが、全くない環境ということは不可能だと思いますので…)
Q. FIPは完治しますか?
A. 現時点では「完治」ではなく「寛解(症状がなくなった状態)」を目指す治療となります。再発の可能性もあるため、経過観察が重要です。
Q. 多頭飼いでもうつりませんか?
A. FIP自体の感染力は弱いですが、元になる猫腸コロナウイルスはうつる可能性があります。トイレや食器の共用に注意し、衛生管理を心がけてください。
Q. ワクチンはありますか?
A. 現在、日本国内ではFIPに対する有効なワクチンは存在しません。
今や「FIP=治せない病気」ではありません。
治療法の進歩によって、多くのねこちゃんが希望を持てる時代になってきました。
私が大学の獣医学部を卒業してから約17年の月日が経ちますが、大学在籍当時には存在しなかった新しい薬や治療法など、獣医学も日進月歩で変わってきていると感じます。
その中でもFIP治療は、「非常に大きな前進をした」と言えます。
本文で書かせていただいたように、FIPは私の学生当時から不治の病であり、大学を卒業して小動物臨床に従事するようになってからも、つい数年前まで「治せない病気」の代名詞でした。
現在、完治に至らないまでも、手も足も出なかった病気に治療が可能になったことは本当に喜ばしいことです。
しかし、まだ発展途上中の治療法ではありますので、この病気に対する正しい知識や現段階における治療法の効果やリスクなど、情報を更新していきながら当院の獣医療にも組み入れて提供できるようにしていきます。
この記事の執筆・監修
執筆:菊地(さ) 愛玩動物看護師
監修:石井院長 獣医師
院長 石井 隼
あなたは犬派?猫派?どっち派?
わたしは…どっちも好き!とどちらか選べない院長です。
IKEDA ANIMAL HOSPITAL
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