犬のてんかんは、けいれん発作を症状とした神経疾患であり、比較的多く遭遇する疾患となります。てんかん発作は突然起こるため、初めて見るご家族はかなり動揺されたり、ご不安になる事が多いと思います。
今回は、犬のてんかんの原因や症状、診断、治療法、てんかんが起きたときの受診のタイミングなどについて解説いたします。
1| てんかんとは
てんかんは、けいれんなどの発作症状を24時間以上の間隔をあけて、少なくとも2回以上繰り返す脳の病気です。
2| 犬のてんかんの原因と分類・発症
犬のてんかんの原因には、脳の病気にともなって、てんかん発作が二次性に起こる「構造的てんかん」と、脳に脳波以外の検査で明らかな異常が見つからないのに、てんかん発作を繰り返す「特発性てんかん」とがあります。特発性てんかんの原因は不明ですが、何らかの遺伝子の異常の影響が考えられています。
その他、脳以外の体の異常や中毒なども同様の発作の原因になりえます。(反応性発作といいます。)
3| 犬のてんかんの発症
どんな動物でも発生しますが、犬では多くみられ、100頭に1~5頭の割合で発生します。
特発性てんかんは6ヶ月齢から6歳までに発症することが多く、中年齢以上では構造的てんかんの可能性が高くなります。
4| 犬のてんかんの症状
てんかん発作では、様々な症状が見られます。
代表的なものは
- 体がピーンとつっぱりけいれんする(硬直発作)
- 体をガクガクさせ、けいれんする(間代発作)
通常これらの発作時は意識がありません。
- よだれが異常にでる
- 体の一部分だけがつっぱる(例えば片方の前足だけ上げているなど)
- 筋肉が瞬間的に大きくピクッとする(ミオクロニー発作)
などが見られます。
発作は通常、数秒から1、2分ほどで終わり、その後は何事もなかったかのように普通に戻ることがほとんどです。しかし、てんかん発作が持続し、あるいは完全に回復せずに発作を繰り返すことがあり、これを「てんかん重積状態」といいます。重積状態はときに重い後遺症を残したり、命に関わることもあるのでただちに発作をおさえなければなりません。すぐに動物病院を受診してください。
5| 犬のてんかんの診断・検査
てんかんを疑う場合、次のような検査を行います。
5-1| 問診
てんかん発作は来院時に症状が治まっているケースがあるため、「症状が本当にてんかん発作であったのか?」確認するために、問診は非常に重要なポイントとなります。問診では、発作の時の様子を詳しく聞かせていただきます。発作の時の動画があると診断への近道になります。
問診では以下の点について質問します。
・ どんな発作だったか?(どのように発作が始まったか?)
・ 初めての発作か?
・ 初めて発作を起こした時の年齢
・ 1回の発作の時間
・ 発作の頻度(例えば3ヶ月に1回など)
・ 発作を起こす前にきっかけがあるか?(時間が決まっている、食事の前後など)
・ 発作後の様子(すぐに元に戻るか、目が見えないなど)
・ ワクチン接種歴、これまでの病気(以前頭を打つケガをしたなど)
5-2| 身体検査・神経学的検査
身体検査では体温、心拍数、呼吸数、聴診(心音、肺音、呼吸音など)、全身の視診・触診などを行います。神経学的検査は視診・触診をさらに深く行い、意識レベルや、認知能、歩き方に異常がないか、手足に麻痺がないか、てんかん以外の脳神経の異常が出ていないかを検査します。
5-3| 血液検査・尿検査
てんかん発作の原因が反応性発作かを調べるために行います。血液検査では、全血球検査(CBC)、血液生化学検査、必要に応じて絶食時の総胆汁酸(TBA)や、アンモニアを調べます。尿検査では、尿比重、尿蛋白、尿糖、pH、尿沈渣を調べます。
5-4| レントゲン検査や超音波・心電図検査など
これまでの検査で異常が確認された場合、追加検査として必要に応じてレントゲン検査、超音波検査、心電図検査などを用いて画像検査を行います。
5-1|~5-4|に挙げた検査で明らかな異常がなく、初めての発作が6ヶ月齢以上、6歳以下であれば、反応性発作の原因を除外でき、特発性てんかんである可能性が高くなります。
5-1|~5-4|までの検査は一般的な動物病院でも可能です。
5-5| MRI 検査、脳脊髄液検査
特発性てんかんの診断基準である、初めての発作が6ヶ月齢以上、6歳以下に合わない場合や、神経学的検査で異常がある場合に行います。これらの検査をすることで、構造的てんかんの除外もしくは診断ができます。ただし、これらの検査は2次診療施設での全身麻酔下での検査になります。
具体的にMRI検査は、磁力を使って脳の断層像を得ることで、脳の構造に異常がないかを調べます。脳脊髄液検査は、脳や脊髄の周りにある脳脊髄液を採取し、病原体の感染や炎症性の疾患、腫瘍性の疾患が無いかを調べます。脳脊髄液の採取はMRI検査後に行われることがほとんどで、MRI検査で採取のリスクが高いと判断された場合は行われないこともあります。
5-6| 脳波検査
脳波計を使って脳の電気的な変化を波形として調べる検査で、特発性てんかんの診断精度を高める場合に行うことがあります。脳波の検査も2次診療施設で、一般的に鎮静下で行います。
6| 犬のてんかんの治療
6-1| 治療
てんかんは、抗てんかん薬によって回数や発作の症状を軽くする治療が中心となります。てんかんを治療することで、脳が壊れるのを防ぎ、てんかんの重篤化・難治化を防ぎます。
適切な抗てんかん薬の種類や投与量には個体差があるので、それぞれに合った薬が決まるまで、少し時間が必要なことがあります。抗てんかん薬は薬の性質上、突然休薬すると発作がひどくなることがあるので注意が必要です。ほとんどの場合で抗てんかん薬は生涯継続する必要があります。構造的てんかんや反応性発作では、抗てんかん薬に加え、原因疾患に対する治療も重要になります。
6-2| いつ治療を始めるのか?
以下のような時には抗てんかん薬の内服をスタートします。
・ 6ヶ月に2回以上のてんかん発作があるとき
・ てんかん発作重積(発作が5分以上持続)あるいは群発発作
(24時間以内に繰り返す発作)の場合
・ 発作後徴候(発作の後の異常行動や体調不調)が特に激しい
(攻撃性や失明など)あるいは24時間以上続く場合
・ 発作の頻度あるいは発作の持続時間が増えている場合
・ 構造的てんかんが明らかな場合
6-3| 治療費例
特発性てんかんで、抗てんかん薬の内服が必要となり、1種類のお薬から開始した場合、体重5㎏のわんちゃんで、お薬代がひと月当たり5千円~となります。お薬を開始した後、血液でお薬の血中濃度を確認したり、お薬の副作用が出ていないかを血液検査や尿検査で定期的に確認します。費用は7千円から1万5千円前後です。
7| てんかんをもつ犬の自宅でのケア
特発性てんかんの場合は、発作のコントロールが良好であればほとんどの犬で天寿を全うできることがわかっています。しかし、発作のコントロールがうまくいかず、てんかん重積状態を繰り返す犬では、てんかんのために早く亡くなる危険があります。反応性てんかんの場合は、原因疾患の種類によって予後が異なります。
当院では治療薬の他に補助療法として食事療法や、鍼・漢方などを普段の生活から発作の頻度や回数を減らすために行なっている子もいます。
8| まとめ
てんかん発作の症状はその子によって違うので、ご自宅でのご家族の観察が診断や治療を行う上で大事な手がかりとなります。スマホで動画で記録したり、発作の頻度や様子、その日の天気などを、てんかん日記として記録するとよいでしょう。
初めての発作がみられたり、発作の様子や頻度に変化が見られたり、気になる症状があれば、すぐにご相談ください。
安川 瑞枝(獣医師)
旅先で猫&犬(特にコーギー)のグッズを探すのが趣味です♪宜しくお願いします。